追悼・栗本薫〜妄想と現実の中に生きて

    2009.05.29 Friday| 23:52 |
小説家・栗本薫(別名:中島梓)さんが、5月26日に亡くなりました。享年56歳。
亡くなる寸前まで書き続けていたと言う代表作「グイン・サーガ」は、遂に完結することなく未完の大作として残されたわけです。
数年前からすい臓ガンに侵され闘病中とは聞き及んでおりましたので、寝耳に水といった類の驚きはありませんでした。むしろ、「遂に…」という気持ちのほうが大きかったと思います。

以降、お亡くなりになった方に対して若干失礼な物言いが含まれますので、畳みます。
あくまでも私見ですので、ご容赦の程。
私はかつて、栗本薫作品の大ファンでした。
きっかけはもちろん「グイン・サーガ」、学生時代の友人に強く薦められ貸し出されて読んだのが最初でした。
最初の数巻を読んで「なかなか面白い」と思い、5巻を超えたあたりからは夢中になって読み耽った記憶があります。その頃で既に随分と巻が進んでいたのですが、友人に借りた既刊を全て読み尽くした後は、自分で買い揃え始めました。要するに、すっかりハマってしまった訳です。
まだブックオフなど無かった時代ですが、学校が神保町の古書店街に近かったという立地条件にも恵まれ、少ないお小遣いをやりくりしては集めた数十巻。本棚に並べた時にはちょっとした達成感がありましたねえ。
読むのだけは異常に早いわたくし。その時点で刊行されていたグインおよび関連作品をああっと言う間に読み終えてしまいました。その後はグイン以外の栗本作品、伊集院大介シリーズやぼくらシリーズなどに手を出し、グイン・サーガだけでなく栗本薫作品全般の読み手となっていったのでした。
…この辺のハマると怒涛のごとくっていうのは、最近の行動パターンとあまり変わっておりませんな。三つ子の魂、百までってヤツです。
挙句、中島梓名義の評論集やエッセイ集などにまで手を出し、ある一時期までの彼女の刊行物は多分全て揃えてしまっていたのですから、これはもうはっきりきっぱり、実は大ファンだったと告白すべきなのでしょう。

過去形なのには訳があります。
今の私は、グイン・サーガもその他の栗本作品もすっかり読まなくなってしまったから。グインは多分、100巻を超えたあたりで読むのを止めてしまっております。
某大河ドラマや映画にハマッたから、ということでは全くありません。映像作品を沢山観るようになり、そして自分自身がいろいろと書き綴るようになって以降確かに読書量は減りましたが、ノンフィクションも小説も変わらず読んではおります。読まなくなったのは、栗本作品。
きっかけはこれまたグインでした。100巻で終わるはずだったグイン・サーガだったはずなのに、絶対に100巻では終わらない宣言を作者自身が言い出した頃から、もやもやとした想いを抱いてしまったのです。
私は長い物語を読むのが大好きです。熱中して読み耽って物語世界に耽溺する喜びに中毒したがるタイプの読み手です。だからこそこのグイン・サーガという未曾有の作品にすっかりのめりこんでしまったわけですが、100巻を超える前後くらいから、果してこのグイン・サーガと言う長大な物語はきちんと終わってくれるんだろうか?もしかして作者には終わらせる気が無いんじゃないだろうか?というように思ってしまったのです。
長年読み続けてきた物語ですから、新刊が出ればあっと言う間にその世界に没頭できる自分がいるし、読めばつまらないってことは全く無い。
でも、物語は一向に進まない。進めようという気が無いんじゃないか?と疑いたくなるくらいに話は行きつ戻りつ横筋に入り込み、内容はどんどん鬱屈していく。
栗本薫自身もかつて語っていたように、その物語が面白ければ面白いほど読み終えた時の寂寥感が大きいのは確か。しかし、終わることなく中断してしまった物語ほど、物語読みにとって辛い存在はありません。
そしてあらためて気付きました。栗本作品には中断、未完結の物語があまりにも多いことに。
物語が降りてくると彼女はかつて語っていました。自分の中には数え切れないくらいの物語があって、自分の生きているうちにそれをどれだけ小説として書けるのかと考えると残念で仕方がないと。
それは確かに本当だったのでしょう。圧倒的なまでの想像力もしくは妄想力に追い立てられるままひたすらに文章を書き綴る、栗本薫はそういうタイプの書き手だったんだと思います。しかし、その想像した世界をきっちりと完結させるだけの構成力、物語全体を俯瞰して見る力に若干の、いや大いなる問題があったのかもしれません。
グイン・サーガはきっと完結しない。漠然とした不安感は、巻が進むごとに確信となりました。
そして私はグインの世界から徐々に離れだしたのです。決して物語の結末を読むことが出来ないといつか明確になってしまったら、そのあまりの悲しさに私は耐えられない。我ながら屈折した感情だと思うのですが、自らその世界から離れたのであればその寂しさは我慢出来る。自分の知らないところで物語は進んでいると信じていられるから。
完結しない物語であるなら、読み続けないほうがいいと私は結論づけたのです。後付で考えると、なのですが。

その同時期に、伊集院大介シリーズの新刊を手にしました。読み始めて違和感を覚え、読み進むうちにどんどん疑問が高じ、読み終えた時には愕然としました。
あの、他のどんな名探偵とも似ていない飄々として心優しい魅力的な名探偵はどこに行ってしまったのか。これ以上書くと、亡くなった方への悪口雑言になってしまいそうなので止めておきますが、「絃の聖域」の「優しい密室」の「鬼面の研究」の伊集院大介は、もうどこにもいなかった。
そして私は、栗本薫の新刊を手にすることを止めてしまいました。かつては大ファンを通り越して信者と言ってもいいくらいなほど、大好きな作家だったのに。

栗本作品から離れて数年、それでも時折覗きに行っていた公式サイトの日記で、彼女がガンに侵され闘病生活を送っていることを知りました。
栗本薫が十数年前に乳ガンを患ったことは知っておりました。その時の闘病記は「アマゾネスのように」として出版されておりますが、仕事を持った一人の女性がガンと戦った記録を勇ましく綴った作品で、非常に優れた読み物だったと思います。
その作品の印象が強かった所為もあるのか、すい臓ガンは進行が早く性質の悪いガンであることを知識として知っていたにも関わらず、どこか高を括っていたような気がします。
「なんだかんだできっと、栗本薫はガンを乗り越えるんだろうな」〜かつての強烈だったファン意識の名残が成せる技なのか、不思議なくらいにそんな風に思い込んでいたのです。
しかしやはり、彼女は逝ってしまいました。グイン・サーガを、新・魔界水滸伝を、六道ヶ辻を、夢幻戦記を、バサラを完結させることなく。

彼女の死を知って私が本棚の奥から引っ張り出してきたのは、中島梓名義で上梓されている「小説道場」でした。
道場主である中島梓が投稿されてきた小説を論評し、小説作法を講義するという内容。有名作家の手による「小説の書き方」的な本は多数存在しますが、この本はその対象を今で言うところのBL小説(当時はJUNE小説と呼ばれておりましたが)に限定したところが特徴的で、非常に興味深かった。
この本を初めて読んだ当時、私は文章を書くということを一切していなかったのですが、この本を読んだことによって尚更、文章を書くましてや創作をすることから遠ざかったような記憶があります。
「小説道場」という題名の小説を書くことについて論評した本を面白く読んでおいて、その上で、文章を書くことから遠ざかったと言うのは矛盾にも思えます。
しかし、当時の私には「何をさておいても文章を綴りたい、物語を紡ぎだしたい」と云う強烈な欲求がまるで無かった。「小説道場」に登場する道場主(=中島梓)や、そしてその弟子たち(=投稿小説の書き手たち)のような、表現することへの熱い情熱を持ち合わせていなかった。当時の私はこの本を読むことでそれを強く自覚させられ、そして書くことから遠ざかってしまったんだろうなと、今にして思います。

今回「小説道場」を読み直して、驚いたことがあります。それは道場主がしきりに「視点のブレ」について言及していたこと。
この場合の視点とは、小説を書く上で登場人物中の誰の心理描写によって物語を書き綴るかということですが、私は文章を読む上でも書く上でもこれが非常に気になるのですね。これは単なる自分の癖、こだわりだと思い込んでいたのですが、どうやらその原点は「小説道場」にあったらしい。
「小説道場」という本の存在すら忘れかけていたのに、いざ読み返してみたらいろいろと思い出すわ気付くわで、当時の自分がいかに栗本薫=中島梓に傾倒していたのかをあらためて思い知らされました。
今に至るBL小説の源流を作り、結果的に沢山の書き手をこの世に送り出したのはやはり栗本薫=中島梓の功績だったと云ってしかるべきでしょう。
そして、決して書くことなどしない出来ないと思い込んでいた私自身も今、書き手として末席に座って居るのです。それはやはり、栗本薫のお陰なのかもしれない。

劣化という言葉を使うのはあまりにも失礼かと思いますが、近年(晩年)の作品の変質に愕然とした私は、栗本薫という作家に対して愛憎半ばする感情を抱くようになってしまったのは上に書いた通りです。
それでもやはり私は、栗本作品が大好きだったのです。
二ヶ月に一度刊行されるグインを読むことが、人生の喜びの一つだと信じて疑わない時がありました。
伊集院大介の活躍に心躍らせていた頃もありました。
趣味的な耽美小説を読んでは密かな同胞意識を抱いていたこともありました。
栗本薫をかつて彼女自身が自負していたような天才だとは思わなくなったけれども、大いなる妄想と止むことの無い創作への欲求に突き動かされ、書くことに憑り付かれた書き続けた稀有な書き手であったことだけは今でも信じてやみません。

ありがとう、栗本薫さん。
ひたすらに書いた貴女の人生はさぞや大いなる喜びに溢れ、そして他人には決して伺い知ることの出来ない創造の苦しみとに彩られていたことでしょう。沢山の小説と評論集とエッセイを生み出してくれて本当にありがとう。そしてお疲れ様でした。
ご冥福を心よりお祈りいたします。

お休み薫くん、良い夢を。

コメント
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>高砂さん

私も雑誌連載当時の小説道場は読んでなかったのですが、後に本にまとまったものを購入したのでした。
読み物としても十分に面白いし、ある一ジャンルの小説がジャンルとして確立していく過程を知る上でも非常に興味深い。そして何よりも、「書くこと」を触発させる本だと思います。
私見ですが、栗本薫=中島梓が作家としても評論家としても一番充実していた時代の仕事ではないかと思っています。
高砂さんも書いていらした通り、小説への愛情が溢れんばかりに感じられる文章であり内容ですよね。

栗本薫という作家に対して私が抱いている感情は上記の通りかなり屈折してしまっているのですが、ある一時代において本当に読み手の心を震わす作品を書いていたことは間違い無いと思います。
もしこれからお読みになるのであれば、80年代から90年代の作品をお薦め。
上でも触れた伊集院大介シリーズの「絃の聖域」や「鬼面の研究」、80年代に何冊か刊行された時代物(「女狐」、「お役者捕物帳」)、同じく80年代のSF小説(「レダ」、「時の石」)などがお薦め。
耽美系はかなり好き嫌いが分かれる内容なので、お手に取る際は慎重にどうぞ。
 どんどん知る作家さんが亡くなられて、なんだか落ち着かない気持ちです。
 栗本薫先生は、じつはその作品は一度も拝見したことがないのですが、「小説道場」は最近になって手に取りました。
 とんでもなく大きい刺激を受けましたし、中では「神」と呼びたい位の作家さんが育っていかれているのを見てひっそり感激したりしてました。

 論評本ですが、文章一つ一つが立ち上がっていて、引力を感じます。油が乗っていた頃なのかなぁと思います。小説やそれを書く人に対して溢れる位の愛情と喜びをもたれていたのでは、と感じます。

 ですから、本当に勝手な意見なのですが、出会ったばかりの、現在進行形の作家さんですので、本当に亡くなられてしまったということに実感が沸きません。

 きっと天国でも、ものを書かれ続けているのだろうなと思っています。

  • 高砂キカ
  • 2009/05/31 12:40 AM
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