「クライマーズ・ハイ」〜凄まじき群像劇

    2008.07.21 Monday| 01:14 |
土曜日、「クライマーズ・ハイ」を観てきました。
ここ数年は洋画を観るのにあまりにも忙しく、劇場でもDVDでも邦画を観る機会はめったに無い私。ところが大変珍しいことに、今年に入ってから映画館で観る邦画はもう3本目です。
今年は邦画の当たり年なのかしら?…違うね、たまたま好きな俳優が出演した映画が続いてるって云うだけだね。萌え本位で観ているとは言え、「ザ・マジックアワー」も「アフタースクール」もとても面白くて大満足。
特に「アフタースクール」はケチの付けどころが無いくらいに良かったので、個人的今年のベスト邦画はこれで決まりだね!(って、この時点で2本しか観てないじゃん)なーんて思っていたのですが。
ちゅどーん! (←大波に浚われました)(そういやあ、配給が東映だった。東映と言えば、オープニングは荒波だ)
あらゆる意味で凄まじい映画でした。スクリーンに釘づけにされました。


「クライマーズ・ハイ」(2008年、日本)

1985年8月12日、北関東新聞の遊軍記者・悠木和雅(堤真一)は、友人で販売局に所属する安西(高嶋政宏)と共に谷川岳登頂の準備を進めていた。
ところが、出発直前になって大阪発の日航機が墜落したという情報が入り、ワンマン社長白河(山崎努)の鶴の一声で、悠木が全権デスクに任命されることとなった。
墜落現場は群馬か長野との推測がなされ、地元である北関東新聞社は総力を挙げて事故報道に挑むこととなるが、取材や報道の方針を巡り社内では激しい対立が勃発する。
一方、取材の最前線では中央の新聞社やテレビメディアとの報道合戦が熾烈を極め、悠木は県警キャップ・佐山達哉(堺雅人)を現場と目される御巣鷹山に送り込む。幹部それぞれの思惑に振り回され、嫉妬に晒され、時に妨害を受けながらも奔走する悠木。
そんな中、安西がくも膜下出血で倒れたとの知らせが舞い込んでくる…。


実を言うと、それほど大きな期待を持って観にいった訳では無かったのです。
横山秀夫原作の映画化と言うと「半落ち」が有名で、確か各映画賞も総嘗めしたはずなのですが、わたくし、この映画にちっとも感動しなかったんですね。
誰もが涙する!感動の嵐!といった感じの宣伝をさんざっぱら聞いていた所為もあるけど、なんだか肩すかしをくらったようで、ちーとも泣けませんでした。主役に全く感情移入出来ないし、オチにも納得が行かない。うっかり、二時間ドラマ?とか思ってしまったくらいで(辛口ゴメン)。

ところがどっこい、この映画は違ってた。2時間25分とかなり長いのですが、全くと言っていいくらい長さを感じなかった。涙は出なかったし、純粋な感動というのとは少し違うのだけれど。
心が力技で揺さぶられた感じ、感情を振り回されて放心状態と表現すると近いかもしれない。
日航機墜落事故と言えば、一定以上の年代の日本人にとっては脳裏に刻みつけられている大事件ですから、その裏話的な興味ももちろんある。新聞社の人間たちの社会の公器としての自覚と崇高な理念、そして相反する俗物根性や矮小さを赤裸々に描いている点も非常に興味深い。
悲惨な事故の全容が刻々と曝け出され、そして、様々な人間模様が次々と暴かれる。
緊迫感に溢れた映像も凄まじい。カット割りが多い所為もあって、一瞬でも眼を逸らしてはいけないような気持ちで画面に引き込まれてしまうのです。

そして何よりも俳優陣が素晴らしい。
私の鑑賞目的は何よりも堺雅人だったわけですが、今回の映画での役どころ・佐山達哉を演じた堺雅人はまさに渾身の名演技だったと言い切れます。
柔らかな物腰と常に微笑みを浮かべているような表情故か、テレビドラマなどで堺雅人に配役されるのは、もっぱら「いい人」役が多い(先日お亡くなりにあそばした上様はちょっと違ってたけどね!)。
しかし堺雅人の(演技)の真骨頂は、その一見穏やかな風貌の陰に隠された頑ななまでの信念や狂気にほど近い激しく強い想い、相反する感情にさいなまれるキャラクターを完璧に演じ切ることのできる、緻密でありながらも情熱に満ちた演技だと思うのです。
大河ドラマ「篤姫」の徳川家定しかり、同じく大河ドラマ「新選組!」の山南敬助しかり。そして、「クライマーズ・ハイ」の佐山達哉もそうです。
外柔内剛という言葉がこれほど似合う役者を、私は他には知らない。
御巣鷹山の尾根を登る佐山。戦場にも比される墜落現場で呆然となりながらも取材を続ける佐山。命がけと言って過言ではない取材記事を落とされ、激昂する佐山。明晰怜悧で経験豊富な警察キャップとして、したたかに特ダネを追いかける佐山。
優しい笑顔の堺雅人、バラエティや対談番組で見せる賢いけれどちょっぴり天然な堺雅人、しか知らない観客がこの佐山達哉を眼にした時、これがあの堺雅人?と呆然としてしまうのではないか、そんな風に思いました。

堺雅人のことしか観てなかったみたいだけど、そんなことはないんだよ?
主演の堤真一がこれまた良かった。辛い過去を抱えながらも、信念を持って新聞記者としての自分を必死で全うしようとする愚直な男。素晴らしく魅力的です。
で、ちょっと面白いというか興味深いと思ったのが、この映画の登場人物のほとんどが悠木さん大好き!なんですよ。いや、変な意味じゃなくて(変な意味でもイヒヒ)ホントに。
堺雅人演じる佐山はそもそも悠木を慕っており、この事件を通じて互いへの信頼をより深めた模様。
くも膜下出血で倒れる友人安西は、倒れてからも悠木の名前を呼んでいたというくらいに、悠ちゃんが大好きでした。ちなみに、奥さんも子供もいらっしゃいますがー。
悠木は社内政争に興味が無いことから干されていたんだけど、若手記者や物の判る職人肌のベテラン記者たちは皆、悠木の味方。
嫉妬や野心故に悠木を追い落とそうとする社会部部長等々力(遠藤憲一)や社会部デスクまで、最終的には悠木のバックアップに回っちゃうし。
そして何より、北関東新聞社の社主である白河頼三(山崎努)ですね。ワンマンでセクハラの権化で、気に入った人間に対して常に強い独占欲を示す白河は、悠木を「ボウヤ」と呼びます。白河は亡くなった悠木の母の古い知合いらしく、悠木のことは可愛がってみたり徹底して存在を否定してみたりで、何やら複雑な感情を抱いているらしい。
社内では、白河が悠木の実の父なのではないかと噂されているんだけど、単純に隠し子とかではない複雑な人間模様がそこにはあるような雰囲気なのです。この件についてはいろいろと思わせぶりに匂わされるだけで、最後まで種明かしはされないんだけど。
とにかく、白河が悠木に執着している事実だけは間違い無いのです。セクハラで退社した元秘書もそう証言してるしね。
結論。悠木さん総愛され映画(←グーで殴って良し)。

未曾有の大事故をテーマとした大作だけあって、他の出演者も名優揃い。
かつて悠木とタッグを組んで大きな仕事を成し遂げ、現在では対立する立場にある等々力部長を演じた遠藤憲一は流石の貫録と迫力でしたし、山崎努の白河社長は底知れぬ恐ろしさを秘めたモンスターじみた老人を怪演しておりました。
役者の演技の凄まじさに引き込まれて、あっという間に時間が過ぎて行きます。
終盤、朝刊の締め切り時間までに抜きネタ(超ド級の特ダネ)を佐山が取れるかどうか、深夜の新聞社内で悠木たちが息を詰めるようにして時計と電話を交互に見かわしているシーンでは、観客のこちらも思わず心臓がどきどきしてしまいました。
ただ。
物語に魅きこまれ、登場人物に完璧に感情移入しての2時間25分なのに、観終わってから若干の物足りなさが残るのです。
それは例えば、悠木のプライベートな部分の描き方の中途半端さだったり、何人かの登場人物が結局どうなったかが判らないままで終わってしまう曖昧さ。
墜落現場を目の当たりにした若手記者の心が壊れてしまう描写のあざとさ、ワンマン社長や俗物の販売局長の描写がえぐいけどありがちだったり。そういった部分。
この原作にこの役者が揃ったんだから、本筋に無くてもよいようなエピソードやありがちな映画的方程式、いかにもな盛り上げをカットすることが出来たら、この映画はより磨ぎ澄まされた傑作となっていたのではないか、そんな風に思ってしまいました。

映画としての完成度は「アフタースクール」に僅差で敵わないようにも思いますが、とにもかくにも秀作であることは間違い無い。あまりの迫力に気押され、終演後、即座に立ち上がれないでいる観客をたくさん見かけたほどです。
役者の演技は折り紙つきの絶品。映像のスケール感を体感するためにも、出来ればスクリーンでの観賞をお勧めいたします。

コメント
>るでぃさん

Twitterから、ようこそ!
「クライマーズハイ」で堺雅人ファンになられたのですね。
あの作品での堺雅人、絶品でしたよねえ(うっとり)。
大河ドラマが終わり、その後の「エンジン」以降はいい人役が続いていたので、あのリアルで激しい演技には魂が持っていかれましたよ。

    >きゃんさんの表現力に脱帽〜

…おおっと〜(照)。身に余るお褒めの言葉、ありがとうございます。
衝動に駆られて書き綴ることが多いので、想いが余って言葉が足りない!ことばかりなのですが、少しでもご共感いただく内容や言葉があったのなら、とても嬉しいです。
心揺さぶられる想い、それを表現出来たらなと、いつも考えています。

堺雅人関連は映画やドラマの新作がらみがほとんどで、情報系のネタはほとんど挙がってこない、ある意味役立たずなブログですが、良かったらまた遊びにきてやってください。
こんにちは。古い記事にコメントすみません。
Teitter からやってきました。

私は「クライマーズ・ハイ」で堺雅人さんを知り、それ以来堺雅人ワールドの住人になっています。

「その一見穏やかな風貌の陰に隠された頑ななまでの信念や狂気にほど近い激しく強い想い」

きゃんさんの表現力に脱帽です。
まさにその想いをこめた「目」に惹かれました。
白雅人さんもいいですが、やっぱり黒雅人さんが大好きです。

またいろいろ読ませていただきますね。
  • るでぃ
  • 2010/04/20 12:53 PM
>alexさん

レス遅くなってゴメン!!

私は堺雅人目当てでの鑑賞だったんだけど、出演陣皆が大熱演で全てに目を奪われちゃいましたよ。
実際にあった大事故というテーマの重さと役者の演技がとにかく素晴らしいことから、実はちょこちょこと散見している「足りなさ(=説明不足だったり尻切れトンボだったりするエピソード)」に気付きにくいのは確かなんだけど、それだけに惜しい!と思いましたのさ。

     >彼の決断に派手なブーイング〜

そうだよね。
普通だったら、あの決断が後を引いて、人間関係にヒビが入ったり気持ちがバラバラになったりしちゃいそうなもんだけど、そうならなかったのは人徳なんだろうねえ。と言うか、やっぱり皆に愛されすぎだよ、悠木さん!(笑)

     >腐界の海から〜

ああああ、判るよお〜。私は必死で押さえこんでる状況です。ほら、今、時間の余裕が無いので。
少し余裕が出来たら、場所を変えてゆっくり語り合いましょう!
新聞社の緊迫感、”チェック、ダブルチェック”を信条とする主人公の決断、人間模様etc。
久しぶりに濃い〜2時間半でした。堺さんのあの眼はほんっとに凄いですネ。ジャージを着てる予告編を最近目にして、なんと幅の広い...とまた思った次第です。

あれだけ濃密なのに、半端に放置した人間関係とか、もう少し説明足してくれたら嬉しかったな、な部分がちょいと心残りでした。



>悠木さん総愛され映画

激しく同意。
みんな大好きですよねー。変な意味でなく(汗)
だからこそ、彼の決断に派手なブーイングが出なかったんでしょうか。

しかし・・・・
うっかり変なところを刺激されてまだ腐界の海から浮上できない私です。
ハマらないように今まで細心の注意を払ってきたのに、たった1本の作品で脳味噌をふやかせた挙句、我が財布を永久凍土に変えてくれる役者さんにカンパイですxxxx


  • alex
  • 2008/07/23 3:13 PM
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