ヴィゴ主演「Good」〜妄想レビュー

    2009.10.30 Friday| 23:45 |
既に10日も前のことになっちゃいましたが、10月20日のヴィゴ51回目のお誕生日を(勝手に)記念し、到着したばかりのヴィゴ主演作「Good」のDVDを観ました。
日本では、上映はおろかDVD発売の噂も全く出てこないこの作品。情報も少なく、実のところ、私も内容をあんまり把握しておりませんで。映像がかなり出回っていたので、1930年代から40年代のオールドファッションスーツに身を包んだヴィゴの麗しさにウハウハするばかり、そればっかり(ええ、基本ミーハーなんです)。
事前に知っていた情報としては、舞台がナチス政権下のドイツだということ。ヴィゴ演じる大学教授ジョン・ハルダーがナチスに利用されるということ。ユダヤ人である友人を裏切ってしまうということ。この3点のみ。
英語のヒアリングなんぞ出来るわけも無いので英語字幕が頼りなんですが、このところ昼間に眼と神経を酷使し過ぎている所為もあって、字幕を読み取る根性が無い。
そもそも、じゃんじゃか流れていく字幕をそのまま読み取る英語力は全く持ち合わせてないので、海外版DVDを観る時は映像を一時停止させては電子辞書さんのお世話になるを繰り返すんですが…現時点で、それだけの時間的余裕を捻り出せないんですよー(泣)。だって、この方法だと普通に観るのの三倍の時間が掛かるんだもん。
簡単に言っちゃえば、字幕を読み取る能力と根性と時間が無いということなんですが(早よ、そう言え)。でまあ、取り急ぎ、台詞の内容を気にせず、ざざっと映像のみを鑑賞したのでした。
本当は先週末か今週初めあたりには字幕検証しつつの再鑑賞をしようと思っていたんですが…まだだったりする。
ファンを名乗っておきながらこの不甲斐ない私を皆さん叱ってやってください。って、実際に叱られたら凹むのでご容赦(←褒めれば伸びる、叩かれると萎む性質)。

しかし! 「Good」の内容、麗しのハルダー教授がどんなであるか少しでも知りたいと思う方、海外版を買おうかどうか悩んでる方がきっと居るに違い無い。そうした方々は、例えほんの少しの情報でも求めているに違いない思い立ったわたくし。だって、私がそうだもん。情報プリーズ!
でまあ、ちょっとだけでも皆々様のお役に立てればと、ストーリー解説もどき&感想を書いてみようかと。
本音としては、既に「Good」鑑賞済みできちんと英語字幕を検証済みの方がいらしたら、是非ともお教えを請いたい!という思惑ありき、なんですが。言ってみれば、釣り用語で言うところのコマセ(=撒き餌)?
撒き餌とか書くと感じ悪いかもだが、大恥をかくのを合点承知で身体を張ったコマセなので、ご理解いただけると幸い。

注意! 
以下に記される内容は、ヒアリングの全く出来ない英語音痴が、字幕すらろくに読まずに映像だけで勝手に解釈した内容となります。
とんでもない間違いや致命的なまでの解釈違いのある可能性が大なので、お読みになる方は、目一杯、眉に唾を付けてからご高覧ください。
また、ネタバレは全く考慮しておりません。
今後鑑賞予定の方で、ネタバレを嫌う方はお読みにならないほうがよろしいかと思います。大勘違いをしていてネタバレでもなんでもなかった、と云う可能性もありますが、一応はご注意あれ。

と云うことで、「Good」妄想レビューの始まり、始まりです。

物語は第二次世界大戦真っ只中の1942年、ナチス統治下のドイツで始まります。
軍部に呼び出されたジョン・ハルダー(ヴィゴ)は、何事かと怯えながら軍部のオフィスへと出頭。
かなり偉いさんに呼び出されたらしく、おどおどビクビクしまくってます。受付の女性に、「何の用事で呼び出されたんだろう?」と縋りつくような態度で聞いてはみるものの、「私には判りかねます」なんて言われちゃったりして。
いきなりへたれてて、かなり可愛いです、ハルダー教授。
いざ、偉いさんとの面談。お約束のご挨拶「ハイル!ヒットラー!」をやるんだけど、これがねえ、見事なまでに様になって無い。「ハイル!」をやりなれてないんだな、本当はとーってもやりたくないんだなってのがバレバレ…と伝わってくる演技をヴィゴがしております。
えーと、このあたりで早くも字幕検証をすっぱり諦めてしまいました(ヲイ)。撃沈
だって、元は舞台劇だというだけあって台詞は多いし、しかもテンポが速くって、とてもじゃないけど追いきれない。でまあ、上記の通り、取り敢えずはヴィゴ鑑賞に徹することにいたしましたのさ。
それにしても教授姿のヴィゴ、本当に眼の保養です。ネット上に出回っている画像は沢山見ておりましたが、動いて喋っているハルダー教授はこれまた格別です。
この時代のスーツって全体にラインがゆったりめなんだけど、かと言って、バブルの頃のイタリアンスーツとも全然違う柔らかな質感が特徴的。そんなオールドファッションのスーツが、非常に良く似合ってます。
イ−スタン・プロミスでの、あの硬質なイメージのスーツ姿も良いけど、こういう柔らかい雰囲気も良いではないか、良いではないか(そこのわたし!涎を垂らさない!)。
どうやらこの段階では既にナチ党員らしい教授。過去の出来事、ユダヤ人との関わりについて詰問されているシーン…なのかなあ?



物語は数年前に遡ります。
大学教授ジョン・ハルダーは、自分の母親と妻、娘と息子の五人家族。年老いた母は今で言うところの認知症患者で、ハルダーの悩みの種です。
神経症だかヒステリーだかを患っている妻は、家事も家族の面倒もハルダーに任せっきり。ヒステリックにピアノを弾き続けるだけの毎日を送っているようです。娘と息子も決して聞き分けが良いとは言えず、家庭内でのハルダーは孤立無援状態に陥っています。
てんやわんやの状況で孤軍奮闘しているハルダーの姿は悲惨と言えば悲惨なんですが、若干コミカルな雰囲気もあったりします。元の舞台劇はブラックなコメディらしいので、この辺は笑いどころなのかもしれない…台詞を解することが出来れば。
とは言っても大笑いするようなシーンということではなく、苦笑程度なんでしょうけれども。



さて、場面は変わってハルダーが大学で教鞭を取るシーン。
決して学生に人気があるとは言えないらしいハルダー教授の講義、広い教室には空席が目立ちます。いかにもやる気の無さそーな学生相手に淡々と授業を進めていると、突然屋外で騒動が。
一斉に窓際に走り寄る学生達、仕方なく自分も窓の外を見るハルダーの眼に映ったのは、校庭に山積みされた大量の書物でした。
ナチスによる焚書が始まったのです。愕然としながらも平静を装い、何事も無かったかのように授業を再開させるハルダー。ハルダーの気の弱さと事無かれ主義が、伏せられた目線や小さな声で表現されております。
それでですねえ、こうした気弱な態度を見せる時のハルダーの姿が、まるでぷるぷる震えている小動物のように見えてくるんですよ。それってやっぱり、私の目が腐っているからでしょうかねえ? 
常日頃、御年50歳じゃなくて51歳、身長180cmのヴィゴを捉まえて可愛い可愛いとほざいている私ですが、さすがにこんな風な小動物的可愛さをヴィゴに感じたことは無かったんですよね。
そうした種類の可愛さはマチューと、役柄によってはダニエルにお任せのはずなんですが(一体、誰が誰に何をどうお任せするのか?と云った根本的疑問は棚の上にどぞ)。
しかし、このハルダー教授を演じている時のヴィゴは終始一貫、手の平の上でプルプル震えている小動物的な可愛らしさと可憐さを漂わせているんです。
いやはや堪らんぞよ(じゅる)、でございました。
全く以って役者とは凄まじきものです。
あのイースタン・プロミスのニコライを演じた同じ役者とは思えない、真逆のハルダー教授、その表情、声色、立ち居振る舞いの全てが、「いぢめる?」って聞いてくるどっかの漫画のシマリス君みたいなんだよ! ほへら〜(魂が抜け出る音)。
ハシッ!(←抜けかけた魂を捉まえた音) まだまだ導入部の時点で、魂を飛んでかせてどうする。いかん、いかん。
気を取り直して、先に進めましょう。



どうにか授業が終わって学生達は教室を出て行きます。さあ、ここで女の影が登場(笑)。
嫌味なくらいに見事なブロンドを煌かせた女子学生です。何やら意味深な視線をハルダーに向けております。判り易すぎるくらいに判り易い秋波を、ばっしばし送りつけてきます。
ドギマギしながら視線を逸らそうとするハルダー。
…か、可愛い。もちろん、ブロンドではなくハルダーが
観客と同様にブロンドの方もハルダーを可愛いと考えたらしく、研究室だか教授部屋だかに籠っていたハルダーのところに押しかけたブロンド(名前はアンでした)、さっさとハルダーを押し倒します。
ハルダーが押し倒すんじゃありませんよー。遥か年下の美人の女子学生が、ハルダー教授を押し倒すんですよー。神聖なる仕事場で襲われるハルダー教授、いと哀れなり。
はい、ここテストに出るよー、出ませんってば。



ハルダー教授、疲れとストレスが溜まっているようです。どんなに頑張っても家庭はほぼ崩壊状態、心休まる場所ではない。第一次世界大戦における敗戦後の大不況からようやく復興してきたドイツですが、今度はヒトラーが台頭し、ナチス政権下で世情はどうにもキナ臭い。
専門である文学に没頭している時と親友であるモーリス(ジェイソン・アイザック)とビールのジョッキを空けながらナチスの悪口を言うぐらいが、ささやかな日々の楽しみであるハルダー。
その心の隙間に、アンはちゃっかりと入り込みます。
冷やかしながらも心配するモーリスを退け、ハルダーはアンと日々を過ごすようになります。アンを連れてと云うよりアンに連れられてなのかなあ、華やかな場所に出入りするようになるハルダー。
その一方で、母の痴呆は進行し、遂には自殺を図るに至って家庭は壊滅状態。ハルダーは自分の置かれている状況を映し出すかのような、安楽死をテーマとした小説を書き綴ります。
そして、この一篇の小説がハルダーの運命を変えるのです。
「生命の泉」計画と呼ばれる、容姿端麗で知的なアーリア人種の純化と増殖を掲げていたナチスは、一方で「断種法」により精神病者や障害者、ユダヤ人の強制処分を推し進めていました。そうした人々を「遺伝的に穢れている」と決め付けたナチスは、安楽死の制度化を画策していました。
そして、ジョン・ハルダーがごく個人的な体験と視点から書いたはずの小説は、ナチスのプロパガンダ小説として利用されてしまう。
本来のハルダーは差別意識があるわけでもなく、ナチスの優生学思想とは相容れない真っ当で常識的な知識人なのです。しかし、意図せずして乗せられた車から飛び降りるだけの強い意志や精神力を彼は持っていなかった。ナチスに批判的だったはずのハルダーは、いつの間にかナチスの党員(名誉党員?)に祀り上げられてしまいます。

時代の波と社会の趨勢に為す術も無く流されていくハルダー教授の姿、それは哀れであると同時に、非常に恐ろしいものでもありました。
物言えば唇寒し、と云う言葉がありますが、ナチスに支配された社会=全体主義国家は寒いどころの候ではない。うかつな発言は社会的抹殺どころか、本人や家族の生命さえ危ぶまれる事態を招くのです。
いろいろと物騒な事件が多いとは言え、取り敢えずは平和な日本に住んでいる私たち。言論の自由、表現の自由が法律でも社会的にも認められる現代に生きる私たちには、本当の意味では想像できない状況だと思う。
映画やドラマで見る戦中の日本、本や資料で伺い知れるスターリン圧政下のソ連、文化大革命時の中国(未だに本当の意味での表現の自由は無い国ですが、文革の時代はそれどころじゃなかった)、そして北朝鮮、そういった全体主義国家においてどれだけ言論が統制され、個人の命が軽んじられ、個々の抵抗が完膚なきまでに叩き伏せられてきたことか。

安楽死小説がナチスに利用されることにより、ハルダーは特権的立場を得ます。
字幕をきちんと読んでないのでこの辺はちょっと曖昧なんですが、神経症を患っていた妻とは別れたんだか別れさせられたんだかしてしまい、そしてハルダーの妻の座には、若く美しい金髪美女、そう、あの女子学生アンが座るのです。
頭脳優秀、背が高く金髪に青い眼、白い肌を持つ美しき夫婦、正装したハルダーと着飾ったアンのカップルは、ナチスの掲げる「生命の泉計画」をまさに体現しているかのよう。
家事と家族の世話に追いまくられていたハルダーは、今やナチスドイツの寵児の一人となってしまいました。
ハルダーは悪人ではありません。安楽死小説を書いたからと言って、本気で母の死を望んだわけではなく(自殺を図る母を必死で止めている)、悩まされながらも妻子を大切に思っていた。
しかし、知識人とは言ってもごくごく普通の善良な市民でしかなかったハルダーには、ナチスによってお膳立てされた生活と地位に抵抗するだけの強靭な精神力は持ち合わせていなかったのです。



そうこうしているうちに、ユダヤ人への迫害は日を追うごとに激しくなっていきます。ハルダーはモーリスにフランスへの亡命を手助けして欲しいと頼まれます。
親友同士の二人は今や、一方は支配者・迫害者の側に立ち、一方は支配され迫害される者として命の危機に立たされている。怒りと哀しみを滾らせるモーリスと罪悪感に苛まれるハルダーとの食事シーンは、実に切ない。
ハルダーは勇気を奮い起こし、モーリスのためにパリ行きの鉄道切符を買おうとします。ところが間の悪いことに、もしくは見張られていたのか、顔見知りのナチス親衛隊員に見つかってしまいます。
なんとか言い逃れてその場はやり過ごしたものの、切符は入手出来ずじまい。
ハルダーとて、完璧に安全を約束された身の上などではないという現状。自分の立場と親友の命を秤に掛ける訳では無いけれど…。

確かにハルダーはへなちょこです。勇気も無いし、わが身可愛さに保身に走っているとも言える。でもね、実際にそうした立場に立たされた時、人はそれほど立派であり続けられるでしょうか?
私は正直言って、全く自信が無いです。
この辺のくだりを見つつ思い浮かべたのが、ジョージ・オーウェルの小説「1984年」でした。ご存知の方も多いでしょうけれども、全体主義に統治された近未来世界の恐怖を描いた作品です。
物語の後半、主人公のウィンストン・スミスと恋人のジューリアが思想警察に捕まり、拷問を受けるシーン。
「自分じゃない!悪いのは彼だ!拷問を受けるべきは彼だ!」
「悪いのはジューリアだ! 私じゃない!」
愛し合っていたはずの二人は、追い詰められた状況で庇いあうどころか、互いに罪をなすりつけようとする。なんとも恐ろしいシーンですが、悲しいことにこれは人間の一面の真実であるかもしれないと、私は思うのです。

しかし、ハルダーの友を愛する善なる心が消え失せたわけではありませんでした。
偶然の機会からパリ行きの切符を入手したハルダーは、モーリスの自宅へと駆けつけます。
ところが、モーリスは不在でした。ハルダーはドアの隙間から、切符が手に入ったから自分の家に来るようにと記したメモを投げ入れます。
自宅に戻ったハルダーでしたが、その晩、事件は起こります。後に「水晶の夜(クリスタルナハト)」と呼ばれた、ナチスによるユダヤ人商店の徹底破壊の夜。
事態を知ったハルダーは、モーリスへの伝言を妻のアンに言付けると、騒乱の街に飛び出していきます。打ち壊され荒れ果てたユダヤ人街、トラックに押し込められ収容所へと連れ去られる人々の姿に、呆然とするハルダー。
自己保身のため、ひたすらに眼を瞑って見ないようにしていたおぞましい現実が、ハルダーの目前にこれでもかとばかりに突きつけられるのです。
モーリスの名を呼びながら街を彷徨うハルダーでしたが、SS(ナチス親衛隊)の制服の威力を嵩に、ユダヤ人を連れ去ろうとするトラックを押し留めます。
荷台にぎっしりと押し込められたユダヤ人たち。ハルダーに言われた通り、担当の軍人がモーリスの姓名を呼ぶと、一人の男が手を上げます。
それはモーリスではない、同じ名前と云うだけの明らかな別人でした。しかしハルダーには、自分が捜しているのはその男ではないとは言えません。「その男ではない」と言ってしまえば、訳も判らず藁にも縋る思いで名乗りを上げた、そのモーリスと同じ名前を持つ男は収容所へと連行されてしまうのですから。
解き放たれたその男は、脱兎の如く逃げていきます。感情の消えた表情でハルダーを見つめるユダヤ人たち。彼らを押し込めたトラックは収容所へと走り去ります。破壊され尽くした街の中で、立ち竦むハルダー。

そして物語は、数年後、軍部に呼び出されるシーンへと戻ります。
偉いさんとのやりとりはよく判らなかったのですが、とにかく用件はモーリスに絡んだことらしい。叱責されるのかと思いきや、資料室のような部署に連れて行かれ、ユダヤ人関連の資料を見ることを許可されるハルダー。ヒトラー総統の覚えよろしき御用学者ってことなんでしょうかしらねえ?
モーリスの消息らしきものをようやく掴んだハルダーは、収容所へ出向くことになります。
軍服を着て迎えの車に乗り込んだハルダーは、見送りに出たアンに「もう、君の元へは戻らない」と云った類の言葉を言ったような…済みません、また後日、ちゃんと検証します。
半分以上想像なんですが、あの晩、モーリスはハルダーの自宅を訪ねてきたのではないかと。ハルダーから言付けられていたにも関わらず、アンはモーリスに伝言を伝えなかったのではないかと。それどころか、もしかするとアンがモーリスをナチスに売ったのではないかと。
字幕も読まずに何故そう考えたかと云うと、このシーンでのアンに対するハルダーの表情が凍りついたように冷たいものだったから。この物語を通じてほとんど唯一と云っていいくらい、酷薄な表情を顔に浮かべていたのですよ。
そして、終始一貫、自信満々だったはずのアンは、走り去る車を見つめ呆然と立ち尽くしている。…私の推測が当たらずと言えども遠からじなのではないかと。

ユダヤ人収容所へと到着したハルダー。
想像をはるかに超える劣悪な環境に愕然としながらも、ハルダーは収容所長にモーリスの名を告げます。ところが、名前だけで個人を特定させることは難しいらしい。なぜなら、ここに押し込められたユダヤ人たちには、名前は既に存在しないから。彼らは全て番号で呼ばれ、番号で管理されているのです。
名前も無く、もちろん人権なぞ認められず、ろくな食事も与えられないまま強制労働に駆りだされ、体力の無いものからバタバタと倒れ死んでいく、収容所の現実。
モーリスの姿を求めて収容所の中を彷徨うハルダーの姿は、まるで悪夢の中でもがいているかのようです。
かつてハルダーは家族を愛し、友を愛し、文学と芸術を愛する善良なる一市民でした。しかし、保身ゆえに何も見えない聞こえないふりをし続けたことは、実際にはナチスに加担したことと同義だったのです。
直接的に手を下したことは無くとも、SSの制服に身を包んだハルダーは殺戮者の一味以外の何者でも無い。
ここに至ってハルダーは自分が一体何に加担してしまったか、いや、眼を瞑って何もせずにいたことが如何に悪であったのかということに気付かされ、打ちのめされます。
絶望するハルダーの耳に音楽が聞こえてきます。収容所の中でユダヤ人たちが奏でさせられている音楽は、場所に全く似つかわしくないその曲は、かつてハルダーの頭の中で鳴り響いていた音楽と同じ優雅なクラシック音楽です。
それはもしかすると、ハルダーの中の善き心を象徴するものだったのかもしれません。


…ぜーはー、ぜーはー、長いよお、しんどいよお。たらーっ ここまで読んでくださった方も、まことにお疲れ様でした。
鑑賞済みの方が少ないであろうことを前提に、ストーリー解説と感想を一緒くたに書いてしまったので、いつも以上にむやみに長く、従って読みにくくなっちゃっててすみません。
先にも書いた通り、とんでもない大勘違い大会になっている可能性も高いのですが、志だけは買ってやっていただけると幸い。
少し余裕が出来たら、ちゃんと字幕検証もしますので。何時になったら余裕が出来るかは神のみぞ知る、ですが。

最後にもう一つ、いや、二つばかり追加。
個人的に非常に興味深かったのが、ヴィゴ演じるところのハルダーに、ナチスの制服が見事なまでに似合っていなかったこと でした。
鑑賞前は、さぞや似合って麗しいことだろうと楽しみに思っていたのですよ。
ナチスのしでかした様々な悪行が決して許されないものであることは重々承知ですが、ナチスの制服、その中でもSSの制服が非常に美的であることは認めざるを得ないですしね。
スタイルが良く立ち姿の美しいヴィゴに軍服が似合うのは「GIジェーン」でも立証済みだし、この映画の中では金髪碧眼の典型的ドイツ人役だし、そしたら似合わない訳が無いよね!…と考えてたら、とんでもなかった。
まあ、似合わないったら、とことん似合わない。
前述したスーツ姿や、大学で講義をしている時のクラシックなガウン姿はとてつもなく似合っていてうっとりものなのに、SSの制服を着たハルダーときたら、無理矢理仮装をさせられたようにしか見えないのです。
これは、物語中のハルダーの心理が表れているからだと思う。単に着慣れないからというのではなく、表立っては出せないナチスへの反感や怯え、本当はこんな制服なぞ着たくない!と云う感情ゆえに、あれほど似合わなく見えるのではないかと。
ヴィゴのインタビューで「ナチスの制服を着た自分を鏡で見て、とてつもない違和感を持った」という類の発言がありましたが、納得至極です。物語中のハルダーもだけど、ヴィゴはそれ以上にナチスの制服なんて着たくないと思っていたことでしょうし。
このあたりは、本来はドイツ出身俳優が演じるはずだったドイツ軍人役をクランクイン寸前に「自分がやる」って言い出して奪い取って張り切って演技して挙句に大顰蹙を買った、どっかの誰かさんとはえらい違いですなあ。
↑↑↑ 個人攻撃&悪口なので、隠しました。だったら書かなきゃいいんだけど、書きたかったんだもん!

もう一つ。この映画はアメリカではさっぱり当たらなかったとのことですが、さもありなん。
主人公はハリウッド的ヒーロー像とは真逆の気弱小動物プルプル君だし、最後まで何のカタルシスも得られぬまま、絶望の淵に佇む人々(収容所のユダヤ人とハルダー教授)の姿を映して映画が終わるんだもん、アメリカ人にウケる訳が無い。
この映画をアメリカでウケるハリウッド映画として作るなら、ハルダーはナチスに抵抗して地下活動のリーダーになるとか、友を庇って華々しく散るとかしなきゃだよね。それじゃあ、違う映画になってしまうではないか!
でも、逆にヨーロッパでは評価されたというのも判る気がします。
日本だったらどうだろ?…一般のシネコンとかで上映したら、まず当たらないだろうなあ。映画評論家とか玄人筋にはウケそうなので、都心部の単館のみでの上映とかならそこそこ話題になるかも。
私? うーん、ちょっと癖になるかも。映画のほぼ全編に亘り息が詰まるような閉塞感が漂っていて、観ていて非常に辛いんだけどまた観返したくなる、そんな感じの作品でした。
さあて…字幕検証せねば。

コメント
>alexさん

実際に観る前から「絶対、私の好みど真ん中〜」と騒ぎ立て、alexさんにも「絶対そうだよ、そう思うよー」とお墨付きをいただいておりましたが、やっぱり案の定でございましたよ。
前髪ハラリでインテリ眼鏡ってだけでストライクですが、しかも、あんなにプルプルひよひよしていて可愛いとは想像以上でした。
ヴィゴがこれまで演じた役柄で、あんな小動物系の可愛さを漂わせているのってなかったような気がするので新鮮でもあったのですが、まあ、実際にはヴィゴなら何してても可愛いですけどー。
アメリカ的なヒーロー像とは掛け離れているので、そりゃあアメリカでは受ける訳が無い。
でもアメリカだって実際にはレッドパージだのマッカーシズムだのが吹き荒れた時代もあったし、ドキュメンタリー映画「セルロイドクローゼット」やショーン・ペンの「ミルク」などで描かれている通り、同性愛者への酷い差別や弾圧はあったんですけどね。…そう云うの無かったことにしたがるのが、アメリカ流正義だったりもするんで(お、きゃんさん、珍しく政治的発言しちゃったい)。

アンとの離別シーン。私の想像が概ね当たっていたとのこと。そっか、良かったー(?)。
まあ、ハルダーの表情を観察すれば、大体予想出来るっちゃあ出来るんだけど、alexさんの解説でより正確なところが判って、ありがたや、ありがたや。

     >国勢調査じゃないですが、人の動きを追跡できるようなそんな感じのシステム〜

そうか!そういう流れだったんだー。
あそこのやりとりがどうにも判らず(字幕読め)、ハルダーってばどうやって偉いさんを誑し込んだのか(字幕読め)、悩んでいたのです(だから、字幕読め)。
なるほど、すっきり。そうした展開であると云う事を前提に、また観返してみます。字幕も読もう。

音楽はねえ、解釈に悩むところだよね。あの音楽がハルダーにだけ聞こえているらしいって言うのに途中から気付いたもので、どういったシーンで流れたか細かく検証していないのです。
そのあたりを再検証すれば、良心の呵責なのか善き心の現われなのか、また、他に何か意味合いがあるのかが判るかと。

     >ヴィゴのルックスならSSの制服はものすごく似合うはずなのに〜

やっぱり、alexさんもそう思った?
あまりの似合わなさぶりは、ちょっと驚くくらいのレベルだよね。
この映画の場合、ハルダー教授にあの制服が似合わないのが正解なので、そういったあたりもヴィゴは凄いと思ったよ。

     >ナチの知識を多少備えてからじゃなきゃ〜

それは、あるかも。ナチスについてある程度は知っておかないと、ハルダーの置かれている状況がどれだけ危ういものであるかが理解しにくいかも。
私は「Good」鑑賞後、思わず、「ヒトラー最後の十二日間」を観ちゃいましたよ。
きゃんさん、『Good』の鑑賞&感想upお疲れ様&ありがとうございます〜!

やっぱり、このViggoはきゃんさんのストライクゾーンど真ん中でしたね(笑) ぷるぷるしてますよね、プルプル(爆)
プレスなんかでおろおろするダニエルとはまた違った、ヘタレた耳が見えるようなViggoのオロオロな様子。
この作品、アメリカじゃまず受けませんよね。日本は・・・受けるような受けないような。お上に物を言えない空気はこの国にも確かにあったので・・。

アンへのバイバイですが、きゃんさんのご想像通りですよ(^^)b 国勢調査じゃないですが、人の動きを追跡できるようなそんな感じのシステム(といっても紙管理)を作り出したかで、それのデモンストレーションにモーリスを使えば、彼の居所が分かると考えたハルダーは、さも「ランダムに選びました」な感じでモーリスの資料を出させるのです。そこにはたぶん、彼がどこで捕獲されてどこの収容所に入れられたかが書いてあると思われます。
捕獲日時を見た時のハルダーの顔。「さよならも言わずに行くの?」と追いすがるアンに向けた言葉は「私は君が何をしたか知っているんだ」。「何の話?」としらばっくれるアンに、「ゲシュタポはすべてを記録している」(ちょい端折ってますが)。話の内容から、アンはモーリスを中に入れて、そしてゲシュタポを呼んだと思われます。アンはハルダーが危険を犯してユダヤ人のモーリスに手を貸すのを嫌がっていたので、コレ幸いとばかりに売ったんでしょうね。それがバレるとも知らずに。
子供を捨てての行動ですので、ハルダーは心底嫌気がさしたんだろうなぁと思いました。

収容所でユダヤ人が奏でている音楽ですが、劇中に何度も出てきますよね。ハルダーだけに聞こえているような感じで。あれが何を意味するのか、ハルダーがユダヤ人を憎んでいないことなのか、良心の呵責なのか、善き心なのか掴みかねていたんですが、やっぱりあれはハルダーの善き心を表している部分もあるんでしょうね。

ヴィゴのルックスならSSの制服はものすごく似合うはずなのに、まーったく似合ってなかったあたりがさすがだなぁと思いました。
オーラがSSのオーラじゃなかったですよね〜。

初見時、アンに押されるまま、ナチスに押されるままだったハルダーがなんだかとってもヘタレすぎでいまいち好きになれなかった作品なのですが、きゃんさんの感想を拝見してちょっと視点を変えられそうです。
そもそも、ナチの知識を多少備えてからじゃなきゃ、理解するには難しい題材でした(滝汗) そのあたり全く未検証のまま見ちゃったので、人物だけに目がいってしまったのかも・・・。あまりにも消化不良なので、今度また見直します!
また語らせてください(笑)
  • alex
  • 2009/11/01 7:19 PM
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