追悼・栗本薫〜妄想と現実の中に生きて

    2009.05.29 Friday| 23:52 |
小説家・栗本薫(別名:中島梓)さんが、5月26日に亡くなりました。享年56歳。
亡くなる寸前まで書き続けていたと言う代表作「グイン・サーガ」は、遂に完結することなく未完の大作として残されたわけです。
数年前からすい臓ガンに侵され闘病中とは聞き及んでおりましたので、寝耳に水といった類の驚きはありませんでした。むしろ、「遂に…」という気持ちのほうが大きかったと思います。

以降、お亡くなりになった方に対して若干失礼な物言いが含まれますので、畳みます。
あくまでも私見ですので、ご容赦の程。

容赦無く残酷で途轍もなく美しい〜「ザ・ロード」

    2008.08.06 Wednesday| 23:58 |
あまり楽しくない、と云うよりかむしろ不快な記事がいつまでもトップに置いてあるというこの状況は如何なものか。
と自問自答しつつも、管理人多忙につき身動きが取れず、大変失礼いたしました。


発売日に「ザ・ロード」を購入して早一か月半。
書く書くと云ってなかなか感想が書けなかったのですが、三度ほど読み返してようやっと、書こう!という勇気が湧いてきました。
作品の素晴らしさに比べ何とも拙く言葉足らずの感想になってしまうこと確実ですが、興味はあるけど未読といった方へちょっとでも背を押す役目が出来ればと思い、綴らせていただきます。
以下の記述には、簡単なストーリー解説も含め若干のネタバレが含まれます。肝心要の箇所については出来るだけ避けるようにいたしますが、ご了承ください。



「ザ・ロード」は、今年のアカデミー賞受賞作「ノーカントリー」(小説邦題「血と暴力の国」)の原作者として有名なアメリカの小説家コーマック・マッカーシーが2006年に発表した小説です。
2007年のピューリッツアー賞受賞作、全米では170万部を超える大ベストセラーになったとか。
ヴィゴ・モーテンセン主演による映画の撮影は既に完了し、アメリカでは今年の秋に公開予定とのこと。皆さまご推察の通り、私がこの小説を読もうと思った理由の100%は、そのヴィゴ主演映画の原作であるということな訳ですが。
人生とはやはり出会いだなと思いました。もし、ヴィゴのファンにならなければ、多分私はこの小説を読むことは無かったと思うのです。
なぜかと云いますと、読み手としての私は非常に文体の好みが激しくて、それでもって俗にいうところの翻訳調がちょっぴり苦手なんですね。よほどのことが無いと自ら好んで翻訳小説を読むことは無いのですが、この「ザ・ロード」は傑作でした。
私がここ一年、いや数年間に読んだ小説の中で、紛うかたなき最高の作品だったと云い切れます。
本当に読んで良かった。
使い古された言い方だけど、心が震え魂が揺さぶられました。

ジャンルとしては、近未来小説ということになるのでしょうか。
恐らく核戦争によって、人類とその文明のほとんどが滅亡した世界。破壊しつくされ荒れ果てたアメリカ大陸を、父親とまだ幼い息子が旅をするという物語です。
核による大規模環境変動により、世界は寒冷化が進んでいます。父子は食料や最低限の生活必需品をショッピングカートに積め込み、少しでも暖かい土地を目指し、南へと歩み続けています。
植物も動物もほとんど生存していない世界。生き残った人類はわずかな食料を求めて殺し合い、食べるために人を狩る人喰いたちが当たり前のように存在します。
世界がこのような現実になってから生まれた少年に、父親は自分たちが「善い者」であること、自分たち二人は「火を運ぶ者」だと常に語り聞かせます。
「善い者」を語りながらも父は拳銃を手放しません。息子を守るために、そして息子を守る存在としての自分を生かすために。
そして自問自答を重ねるのです。
奴らに息子を奪われる前に自分は息子を撃ち殺すことができるだろうかと。もしも人喰いたちに少年が捕まったりすれば、それはただの死よりも遥かに残酷なことだから。
父親にとって息子は生きる意味、自分自身の心そのもの。父親はこの少年がいなければ、とうの昔に生きることを放棄し楽になる道を選んでいたでしょう。少年の母がそうしたように。
父は持てる限りの知恵と力を駆使し必死で生きようとする。それはただひたすらに、彼の命である少年を生かすために。
未来への希望など一滴たりとも見いだせない世界で、それでも彼は自分の息子に決して死んではならないと云い聞かせつづけます。
その一方で彼は、万が一の時に少年が苦しむことのないように、拳銃の最後で最悪の使い方を教えるのです。

やり方はわかるだろう。口に入れて上のほうに向ける。すばやく力いっぱい引く。
(〜「ザ・ロード」P101より抜粋)

過去の世界を知らず父の言葉だけを聞かされて成長した少年は、この絶望的な現実の中に生きながらもまるで天使のように純粋で、善良であろうとします。
父の反対を押し切り乏しい食料を行きずりの老人に分け与えたり、自分たちを殺そうとした男、自分たちの食料や全ての生活物資を奪って逃げた男を殺さず許すよう懇願したり。
それは幼いが故の甘さではなく、現実の過酷さを知らない故などでも更々無いのです。
少年は自分たちが生と死の瀬戸際のギリギリを歩んでいることを知っている。世界がとてつもなく非情で、悪意に満ち溢れていることも知っている。
彼は時に死を口にします。それは夜毎訪れる悪夢などではなく、間近なすぐそこに、手の届くところに常にある現実だと生まれながらに知っているのです。
それでも少年は「僕たちは善い者だよね?」と父に問い掛け、せめて自分たちだけは善い者であらねばならぬと固く信じているのです。

ぼくたちは誰も食べないよね?
ああ、もちろんだ。
飢えてもだよね?
もう飢えてるじゃないか。
それでもやらないんだよね?
ああ、やらない。
そう、どんなことがあっても。
ぼくたちは善い者だから。
火を運んでいるから。

(〜「ザ・ロード」P114より抜粋)

物語自体はシンプルな展開で、終末物のSFとしてはむしろありふれていると云えるかもしれません。しかし、まるで詩を読んでいるかのような繊細な言葉と研ぎ澄まされた文章の力強さは凄まじいほどです。
そして、翻訳がまた素晴らしい。
ほとんど句読点の無い独特の文体は異様な迫力があり、読者をぐいぐいと惹きつけます。一度読み始めようものなら最後まで、息つく暇も無いほどに読みたくなってしまう。それでいて、言葉の一文字一文字を安易に読み飛ばすことなく、宝石を愛でるかのように読み尽したくなってしまう。
二人の旅はいつまで続き、どこに行きつくのか。容赦無く残酷で途轍もなく美しい物語。
ぜひ、ご自分の眼で読んで感じ取っていただきたい。まさに傑作です。


映画化について、幾つか。
ヴィゴ・モーテンセンをという役者を映画で見知っていて、彼の人となりを少しでも知っている人がこの「ザ・ロード」を読んだとしたら、これはもしかしてヴィゴをモデルに書いた小説なんじゃなかろうか、そんな風に思いこんでしまうのではないかと感じました。
もちろんわたくしは、「ザ・ロード」映画化にあたりヴィゴがこの父親役を演じたことを知った上でこの作品を読んだのですが、それにしてもぴったりはまり過ぎです。
本気で、「あて書き(映画や演劇などの脚本を書く際、ある特定の役者が演じることを前提にキャラクターを作り描くこと)」なんじゃないかって思ったくらい。三谷幸喜じゃあるまいし(ミタニンはあて書きで有名)、そんなことは絶対無いだろうけれども。
聞くところによりますと、ヴィゴはここ数年、主演作が立て続いたことから、しばらく映画はお休みする予定だったとのこと。
実際問題、現在日本で公開されている「イースタン・プロミス」の後も「Good」「Appaloosa」と撮影が続き、それぞれの作品のプロモーションも含めて非常に多忙だったようですし。
ところが、この「ザ・ロード」映画化に伴い父親役のオファーが来て、直ぐに受けたんだそうです。
さもありなん。
この小説を原作にヴィゴが主演して、ヴィゴが絶賛している子役が少年を演じて…想像しただけでも、とんでもなく素晴らしい映画になりそう。
日本公開は当然ながら全く決まってないようですが、イースタン・プロミスほど待たされることなく、早期に公開されることを願うのみです。


| 1/1PAGES |

calendar

S M T W T F S
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031 
<< August 2018 >>

selected entries

recent comment

categories

Twitter

recommend

recommend

recommend

recommend

recommend

recommend

recommend

recommend

recommend

recommend

recommend

recommend

recommend

recommend

recommend

recommend

recommend

recommend

recommend

archives

links

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM